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シナリオ#01 ソケたん誕生

(ここは主人公、位 杏斗の家。小鳥がさえずるすがすがしい朝)
ママ「杏斗! そろそろ起きなさい」
杏斗「もう朝なの。あーん、今日は日曜日だよね。もう少し寝させてよ」
ママ「何言ってるの、宿題あったでしょ。さっさと済ませちゃいなさい。パパがいたらきっと……」
杏斗「わ、わかったってば。ええと、とりあえずメールをチェックして。あれ? おじさんからだ。ふむふむ……えっ、研究が完成したですって!? こうしちゃいられないわ。ママ、私おじさんのところに行ってくる」
ママ「どうしたの?」
杏斗「パパから引き継いだ研究が、とうとう完成したんだって」
ママ「えっ、本当に?」
杏斗「そうらしい……大丈夫? ママ」
ママ「ええ、少し驚いただけ。では、こちらからも連絡してみるわね。それと、行くのはいいけど、あなたが見てもわからないのだから邪魔してはだめよ」
杏斗「わかってる。じゃ、いってきまーす」
ママ「研究のさなかに、忽然と行方不明になってしまったパパ。あれから私は、どう受け止めていいかわからないままパパの帰りを待ってます。あの子はあの子で、発明が完成すればきっとパパに合えると信じてる。パパ、今どこにいるの?」
(杏斗の家からさほど遠くない場所に建つ、パパとおじさん(二進博士)の研究所)
杏斗「おはよう、おじさん」
二進「早かったね、杏斗」
杏斗「それより完成したんでしょ。これでパパは帰ってくるんでしょ?」
二進「パパか。それについては私もずっと心を痛めている。だけど、キミはもう子供じゃない。この研究はパパの一番の望みだったんだ。だから私が引き継いだ。私にわかるのはそれだけだよ」
杏斗「で、でも……わたし、パパに逢いたい」
二進「わかってる。うん、きっと何か手がかりが得られるはずだ。それより、メソメソしている姿をパパは望んでいると思うかい」
杏斗「ごめんなさい」
二進「うむ。ところで確かに完成はしたんだが、いまは最終試験中なのだよ。キミはここで見学していなさい」
杏斗「うん、そうする」
「パパの研究って、なんでも効率を何万倍にも高められる量子ソケットとかいうものの開発だって聞いているけど……ソケットって何だろ。ラケットなら知ってるけどね。私にはちんぷんかんぷん。でも、今はしっかり見届けなくちゃいけない気がする。」
(杏斗が見つめる先で、二進博士がせわしなく動き回っている。博士は、どこからかソフトボール大の球を3つ持ってくると、頑丈なフレームに固定された装置のくぼみにはめ込んだ)
杏斗「あの3つの玉は何かしら。あれがソケット……なのかな? 玉を打つのは、やっぱりラケットじゃないとね」
二進「……よしっ、準備OKだ。それでは最終試験を開始する。CPUスタート、ネットワーク接続OK。よしゲート・オープ……」
(少し緊張する杏斗。と、そのとき突然「ピピピピ……」と室内にけたたましく響き渡る警報装置の音。びっくりする杏斗だったが、それは博士も同様のようだ)
二進「ゲートを開く前に不正アクセス! そんなバカな。ファイアーウォールはどうした。むっ、狙いはやはり、量子ソケットに関する情報か。だが、あそこはプロテクションされているから簡単にはいかなはずだ」
(コンソールをせわしなく操作する博士)
二進「しまった! 今度は量子ソケットそのものへの侵入か。すぐ物理的接触を断たなくては……だが、あれには高電圧が。間に合うか!」
(「ピピピピ……」と再び鳴り響く警報音)
二進「別の侵入だと!? 何ということだ。対応しきれん!!」
杏斗「おじさん、慌ててどうしたんだろう。あの球光ってる。とてもきれい」
??(杏…杏斗、量子ソケットを手にしなさい)
杏斗「ぱっ、パパの声? ど、どこにいるの?」
??(ソケットを…球形の…早く)
杏斗「パパ、わかった!」
二進「危ない! それに触っちゃいかん!」
(量子ソケットに触れた杏斗の身体が、バチバチッという激しいスパークに包まれる)
杏斗「きゃあぁぁ!!」
二進「大丈夫か! 杏斗!」
(慌てて走りよる二進博士)
二進「……しっかりしなさい」
杏斗「……おじさん? 私どうしたんだろう」
二進「気がついたかね。どこもケガはしてないかい?」
杏斗「うん大丈夫、どこも痛くないよ。でも何かが守ってくれたような……それより、あの玉は?」
二進「これは! 量子ソケットのユニットが紛失している。なんてことだ。破片も見当たらない」
杏斗「私のせいなのかな。ごめんなさい」
二進「いや、それは違うよ。杏斗のせいじゃない」
杏斗「そ、そうだパパの、パパの声がしたの。だから」
二進「パパだって。まさか……」
(気の動転も収まり、少し安堵する杏斗。ぼうぜん前方を見ていると、その先に何か見慣れぬものの存在がある)
杏斗「お、おじさん。私夢でもみてるのかしら。そこに妖精が3匹も見えるんだけど」
二進「妖精だって? おい、本当に頭でも打ったんじゃ……ん? な、なんだそれは!?」
(それは、ぬいぐるみほどの背丈の、3人の女の子)
るう「"3匹"とか"それ"とか、失礼しちゃうなぁ」
とこ「まあまあ、みなさん状況がわからないんだし」
ぷう「そうそう、状況ふめーなの」
(そこに居たのは、身長30センチほどの、抱き人形のような女の子3人。あっけにとられる、杏斗と二進博士)
二進「しゃ、喋ってる。私は夢でも見ているのだろうか?」
杏斗「おっ! おじさん、私この子たち知ってる。パパが……昔パパが私のために描いてくれた……確か……ソケたん。私に絵を見せて、これはソケたんだよって」
るう「やっと思い出してくれたのね。でも、"ソケたん"はあくまでも総称。私たちにはそれぞれに名前があるのぉ。私は"るう"」
とこ「まあまあ、突然のことなんだし。初めまして。私は"とこ"と申します」
ぷう「突然トの字はとんぼのめがね。わたし、"ぷう"ちゃん」
るう「とまあ、そういうわけだからよろしく」
杏斗「はあ、こちらこそヨロシクお願いします……って、おじさん、私どうしたらいいのぉ」
二進「ちょっと待ってくれ。いったいキミたちは何もの……」
(薄ボンヤリとしているが、目を凝らすと、ソケたんの身体の中心に球体のようなものが確認できる)
二進「そ、その球体は……まさか」
るう「飲み込みが悪いなぁ。仕方ない説明してあげましょう。そう、私たちの中心にあるコアは、あなたが開発した量子ソケット。だけどそれは、効率がとてもよいというだけのものでしかない。そんなんじゃ敵に立ち向かえないから私たちがきたってワケ。一言でいえば、あなたのソケットを取り込んで、さらに機能を高めた自立派生型ソケット。それが私たちなのだー」
二進「し、信じられん。それに、敵というのは誰なんだね」
杏斗「ねえ。そんなことより、パパは……パパは今どこにいるの?」
とこ「お取り込み中で申し訳ないのですけど、その"敵"さんが近づいていますわよ」
ぷう「近づいている近づいてる。ほらっ!」
(その瞬間、研究所の扉が開き、さっそうと現れる謎の3人組み。中央に、自信満々な笑みをたたえる女性、左には杏斗ほどの男の子、そして右には格好をつけた男が立っている)
絵羅「おっほほほ。こんにちはみなさん」
二進「だ、誰だねキミたちは?」
絵羅「私達はムーア財団のものだ。先ほど、ネットワークからあなたの研究データをいただくために侵入したのだけど、邪魔が入って失敗してしまったのそこで、こうしてわざわざ参上したというわけ。痛い目に遭いたくなければ、おとなしく渡すことね」
二進「い、いったい何のことだ」
絵羅「しらばっくれちゃってぇ。私たちは、常にあなたがたの行動を監視しているのよ。あなたの開発した量子ソケット……あるでしょう」
二進「そんなもの、なぜ欲しがるんだね」
絵羅「世界を変えてしまうほどの発明なのに、そんなものとはご謙遜な。それに、研究室に閉じこもってばかりで市場原理というものをご存知ないのかしら。簡単に言えば、そのように著しく優れた技術は世の中にあってはならないの。だってそうでしょう。社会が混乱しちゃうもの。タイムマシンが作られてもいいのは、ずっと未来じゃないと困る人が世界には大勢いるのよね。そして、ムーアの法則がこれまで成立してこれたのは、すべて私たちのおかげってわけ。一般的にムーアの法則といえば、なんとかそこまで技術が向上するだろうという指標として理解されているけれど、実際はとんでもなく優れた技術が突然出現しているわ。だけど文明の進化のスピードが速すぎると、それだけ人類の滅亡にも近づくことになるでしょ。だから、そのスピードをコントロールするために私たちがいるってわけ……あら、少し喋りすぎちゃった」
二進「くっ、そんなもの勝手な自己正当化にすぎん。そして、おあいにくさまだが、先ほどの一件で量子ソケットは紛失してしまったのだ。なんなら探してみるといい」
絵羅「メソッド。調べてちょうだい」
(絵羅亜が、再び二進博士を見据えて口を開く)
絵羅「もちろん、あなたのことは調査済みよ。あなたは量子ソケットについて40%しか知らないし、ここにあるデータも似たようなものだってね。まあ、それでよく最後まで完成させたもだと褒めてあげましょう。だけどね、勝手に引き継いだりしなければ、こんな目には合わなくて済んだはずよ」
スレ「本当に何もないようです。その辺りに散らばっている破片を調べてみる必要はありそうですが」
目素「姉さん。ファイルサーバーをすべてさらってみたけど、やっぱり量子ソケットの肝心部分のデータは見つからないよ。僕、それだけでも欲しかったなぁ」
絵羅「しかたないわね。まあいいわ。量子ソケットさえ破壊すれば、目的の半分は遂行されたようなものですもの」
二進「用が済んだら、さっさと帰ってくれ」
絵羅「そうはいかないわ。私たちは隠密なの。研究を続けられても困るのよ。そういう契約をしてもらわないとね」
二進「そ、そんな契約はできん!」
絵羅「やっぱり、少々痛い目にあっていただくしかなさそうね……あら? あなたの後ろにチラと見えたものはなに?」
(杏斗が後ろに隠していた何かに気づく絵羅亜。青ざめる杏斗)
杏斗「こっ……これは大事な私のお人形よ」
絵羅「怪しいわね。さては、お人形の中に何か隠してるのかな?」
スレ「お嬢ちゃん。早く渡さないと、おしりペンペンしちゃうぞぉ」
杏斗「やーん、こないでぇ!」
(迫るスレッド。ソケたんを抱えて後ずさる杏斗)
二進「頼む。その子は関係ないんだ。逃がしてやってくれないか」
杏斗「いやっ。これはパパからの贈り物なの。だから絶対だめなの」
絵羅「あーら、灯台元暮らしだったかしらね。スレッド!」
スレ「わかってますって」
(そのとき杏斗の腕の中で、ソケたんが杏斗に声を掛けた)
るう「杏斗……杏斗ってば。私にリクエストして」
杏斗「へっ、リクエストって?」
ぷう「お願いすればいいんだよー」
杏斗「なにを?」
とこ「もう、グズグズしないの。欲しいものを言えばいいのよぉ」
杏斗「それどころじゃ……わかんないよ。いま欲しいもの? ええと、あの人たちを……」
ぷう「あの人たちを……?」
杏斗「あの人たちを……おっぱらえるものお願い!」
るう「はい。リクエスト受理しました。"とこ"と"ぷう"、スタンバイして!」
とこ「了解。ぷうちゃん行きましょう」
ぷう「はーい」
(言うやいなや、粒子状に拡散する"とこ"と"ぷう"。それはネットワーク端末の中へと吸い込まれるように消えていく)
メソ「消えた? 絵羅亜さん、何か様子が変ですよ」
絵羅「何やってるの。早くおし!」
(直後、"ぷう"の胸のIPワッペンが点滅。これは、"とこ"と"ぷう"からの準備オッケーの合図だ)
るう「きたきた。ネゴシエーション完了。量子テレポート!」
(虹色の光と共に、何かが忽然と杏斗の前に出現。それは女の子には少し大きすぎるほどのもの。光学照準器が飛び出ている。何かの兵器らしい)
杏斗「わっ。どうなってるの?! これなに?」
るう「それを撃って!」
杏斗「えっ私が? 使い方知らないよう」
るう「携帯ビデオと一緒だよ。横のボタンを押せばいいの」
杏斗「わかった。やってみる」
(絵羅亜一味。突然のことで、同様が隠せない)
絵羅「スレッド。一体なにごと?」
スレ「武器です。いきなりあの子が武器を……」
目素「ふーむ、なるほど。形や銃口からしてレーザー兵器システムかな。そんなものまで作ってるとは、あの博士もやるなぁ。でも心配はご無用。僕が作った対レーザー用携帯バリアーを作動させればノンダメージさ」
絵羅「さっすが弟。頼りになるわね」
目素「当然。でなきゃ僕がここに居る意味がないよ」
(そんな中、ようやく銃口を絵羅亜一味に向ける杏斗)
杏斗「ええい、いっけーぇ!」
(ボタンを押すと空気が裂けるような激しいエネルギーが。杏斗は、あまりの威力に身体が振り回されて、なかなか狙いが定まらない。しかし、そのエネルギーが絵羅亜一味をかすめると、彼らの形相が変わった)
スレ「おい、バリアーの様子がおかしいぞ。まったく防げないじゃないか。ひぃ」
目素「うそだ。僕のバリアーが役立たないなんて。……まさかあれは、どんな防壁でも貫通するニュートリノ砲?」
絵羅「なんですって! ニュートリノ砲といったら、唯一Q国の科学技術省で厳重に封印されているものがあるだけのハズ。それに、ニュートリノ砲なんて、こんな小さな研究所で作れるはずがないわ」
目素「というか見てよ。あれは間違いなくQ国に存在するものだよ」
絵羅「どうして、あの子が持ってるのよ」
目素「僕が知りたいよ」
スレ「たた、タンマ。こりゃヤバイ。ちっくしょう、俺って格好悪すぎだぜ」
絵羅「仕方ない。ひとまず引き上げますわよ」
(命からがら退散する絵羅亜たち。それにも気づかず、闇雲に撃ち続ける杏斗)
二進「杏斗。もういい。もういいんだ。やつらは行ってしまった」
杏斗「お、おじさん。私……わーん」
二進「よくやってくれた。感謝せねばならんな。ありがとう」
るう「うん、よくやった」
とこ「ええ、よくやりましたわ」
ぷう「えらいえらい」
杏斗「うん、みんな助けてくれてありがとう」
(緊張が解けて安堵する二進博士と杏斗)
二進「ところでキミたち。この兵器はなんなだね? 私が発明した覚えはないんだが」
とこ「これですか? あの人たちも言っていたじゃないですか。世の中に、あってはならないものだって。つまりあるんですよ。世の中にはそうした国家レベルで封印された、とんでもないアイテムが」
ぷう「あるある、た〜くさん」
るう「私たちは、それをちょいと拝借してくるだけ。何をどう使うかは杏斗しだい」
ぷう「しだいしだい」
二進「なるほど。ふーむ、これはどうすべきか。今日の事件も、ソケ……たんといったかな。この子らも本来は世間に公表すべきことなのだが……」
(二進博士に、純粋な瞳で訴える杏斗)
二進「……どうやらパパが杏斗に授けたもののようだね。一抹の不安はあるが、いましばらく様子を見なければならない……か」
杏斗「あ、ありがとうおじさん」
二進「なあに、実は私もこの子らに興味はあるんだ。そりゃそうだろう。私だって技術者のはしくれだからね。ましてや私の分身とも言えるわけだし……それよりキミたち、この物騒なものを、元の場所に返さなくていいのかい?」
るう「忘れてた」
とこ「返さないと、この持ち主の人、うんと困りますわよね」
ぷう「困る困るー」
杏斗「ソケたん。えっと……うんと、お、お願いします」
るう「はい、リクエスト受理……してあ〜げない」
杏斗「あーん、ひどーい」
るう「冗談だよー。えへへっ」
(平和が訪れた研究所に、明るい笑い声がこだましていた)
第1話おしまい

(最下行)