低レベル小説「さぷらいずユウコらー」
第1話 あほになったユウコの巻
「ユウコさん、あなたは本当は<あほ>なのよ!」
木村キム子は、得意満面な笑みをたたえて、突然こういった。
「があああん! 知らなかった。私が<あほ>だなんて。でも、しっしどいわ」
ショックで、思わずホッペタの肉をキュウと絞って、顔にタコヤキを作っているユウコ。彼女に向って、キム子は追い打ちをかけるように言った。
「それも、ただの<あほ>じゃないわ<ドあほ>なのよ」
「きゃあああっ。ドはドーナツのドおおお。やめてええええ」
ユウコのタコヤキを人差し指でツンツンしながらキム子は尚も容赦なく攻め続けた。
「ドあほといっても、そこいらへんにいるようなタダの<ドあほ>じゃないわ。<ウルトラビンボのドあほ>なのよ」
「どひぃいいいっ。私はビンボーまるだしだったのねええ。わああああん」
と、そのとき
「こんにちわー。ヤクルトでーす」
「よーぐると、くださーい」
「よーぐると、ちょうだい」
ハッしまった。
いきなり我にかえる木村キム子。だが、ときすでに遅し。鬼の首を取ったがごとく、嬉しそうにユウコが言った。
「結局、よーぐると食べればみな同じなのよね。ふふっ」
「うっ……わああん」
泣き崩れるキム子の肩にそっと手をやるユウコ。ああ青春の1ページ。
第1話 おしまい
第2話 ゆうこラーの子供の巻
「おんぎゃあ、おんぎゃあ」
「おめでとうございます。ほおら、怪獣のお子さんですよ」
あれから1年、怪獣ユウコらーは子供を産み落とした。
それから9年、怪獣ユウコらーの子供に思春期がおとずれた。
「ねえママ。ママの血液型なあに」
「A型だよ」
「じゃあパパは」
「パパもA型」
「ふーん、じゃあなんでボクはB型なの?」
「ギクッ、そっそれは……」
言葉につまるユウコらー。動揺が隠せない体質だ。
「まっ……ママのばかあ。わーん、わんわん」
子供は感情にまかせて、我を忘れて表に飛び出した。ああっ、そこへ物凄いスピードで通勤快速ろばのトニーくんが一直線に進んでくるではありませんか。
「キキキキキー!」
「わーバカどけえっ」
ろばのトニーが慌ててブレーキをかけたが、時すでに遅し。もう目の前だっ、間にあわなーい。
「ドーン」
とっさに子供をかばって、危険をかえりみず道に飛び出したユウコらー。
「マ……ママあ、死んじゃやだよお」
さすがに怪獣だけのことはある。なんと、かすり傷ひとつ負っていません。肝心の通勤ろばのトニーくんは、というと。勢いあまって、どこか遠くに飛んでいってしまった。元気なユウコラーを確認すると。子供の目からは安堵の涙が溢れ出てきた。
「やっぱりママはママだい。ごめんなさーい。みー」
夕日は、いつまでも2人を真っ赤に染めていたのであった。くじけるなトニーくん。
第2話 おしまい
第3話 ユウコライダーのテーマソング
ズンチャカズンズン チャカスカズン
いけいけ正義のユウコライダー
コケても泣くなユウコライダー
自由と愛とカスタードプリンを守りぬけ
敵はファンシー小錦だ 手ごわいぞ
いざとなったらユウコキックー
ねむくなったらユウコパンチー
短い手足でやっつけろ
ユウコライダーこと茂呂間ユウ子は 改造しそこなっちゃった人間である
高い所が大好きというのが唯一のとりえだ しかし悪事もちょっと興味ある年頃だ
怪人キグーレを倒すまで日夜怠惰な生活にひたるのだ
第3話 おしまい
第4話 カレーが食べたいの巻
じたばた
「ぐっぐるじい〜、ああっ私もうだめ。にゃんにゃうん」
机の上にあるパソコンのキーボードを操作する手が止った。ユウコは額に大つぶの汗を吹出させ、ついにはバタンと突っ伏してしまった。身体から蒸気が立ち上り、身体が小刻みに震えている。
「はあはあ」
肩で息をする……ふいに、ぞくぞくとしたものを感じた。このうえない欲求が脳を完全に支配して、もう他のことなど考えられない。
「かっ、カレーが食べたい。辛くてオイしいカレーが」
もうユウコは、いてもたってもいられなかった。唾液が滝のごとく溢れ、まぶたに浮ぶのは、まぎれもない、黄色いタール辛口インドカレー。
カッと、両の目が見開かれた。バンッ!と机を押しなぐり、すっくと立上がるユウコ。その姿には、懇親の思いが表れていた。
「どうしたの? 茂呂間さん」
突然のユウコの奇妙な行動にビックリした先輩の木村キム子が、心配して声をかけてきた。
「どうしたもこうしたもないです。私カレーが食べたい」
「バカになるわよ」
キム子は、辛いものは脳細胞を破壊すると信じていた。
「いいんです、バカになろうが、アホになろうが、おんたんちんになろうが。フラダンスをするサルがヘをここうが」
すでにユウコは、すでに人生を捨てる覚悟をしていた。カレーのためならどうなってもいいと決心していた。
「わたし、行きますっ」
「えっ、どこへいくの、いってらっしゃい」
このとき、キム子はことの重要性がまだ分っていなかった。
ユウコは急いだ、目標は馴染みのカレー屋、<ルー>だ。頭の中は、カレーが支配していた。自然と足早になるユウコ。やがて彼女の異常なまでの欲求が、恐るべき奇跡を呼び起こした。
なんと、歩くスピードがスタート時の5キロから10キロへとアップしていた。
「もっと速く歩かないと……はっはやくカレーが食べたいよう」
思いに比例して歩行速度があがり、このときすでに時速30キロを超えた。
スピードは衰えるどころかグングンとあがっていった。60キロ、ユウコはスカイライン、ジェミニ、パブリカを見る見る追い越していった。
時速100キロ。風は、ユウコのスカートをバタバタと激しく震わした。
やがて、
「ドカーン!」
激しい衝撃音とともに音速を突破した。ソニックブームが町を破壊する。人が空中に舞い、あっというまに100人を越える死者、行方不明者が続出した。もう誰の目にもユウコを捕らえることはできなくなっていた。
数分後、ユウコは光速の80%のスピードになった。ドップラー効果により正面の光が収束していく。スターボーが美しい。
99%。とうとうユウコの身体から物質であろうとする力が失せていく。
100%。ユウコは光になった。意識が宇宙の中に溶け込んだ。それは、とりもなおさずユウコが神そのものになったことを示唆していた。静かに宇宙(そら)を見つめた。
「高気圧が北東の進路を進んでいます。梅雨は北上し……」
キム子は、雨の情景をボンヤリと眺めていた。
「茂呂間さん帰ってこないなー。まっいいか、帰っちゃおっと」
そのとき、キム子はふいにユウコの声がした気がして振りかえった。
「変ね」
誰もいるはずはなかった。
「今日の雨はなんかうっとうしいわ。あーあっ。くたびれた」
一日の疲れからか思考能力は萎えていた。キム子は、トボトボと駅に消えた。
この雨が、ユウコのよだれだとも知らずに…………。
第4話 おしまい
第5話 夏はやっぱり海だの巻
今は夏本番まっさかりの浜辺。ザザザッとくだけ散る白波の音が、砂浜で肌をこがす人々の心を、やさしく包んでいた。
浜辺の一角に、キム子とユウコがいた。2人は久方振りの休日を満喫せんかのように波うちぎわでたわむれていた。
「やーい、こどもぉ」
「こどもじゃなーいもーんだ」
いつもキム子は、ユウコを子供扱いしていた。だけども、ムキになって反発すればするほどユウコはますます子供っぽく見えた。久しぶりのバカンスに二人の心は高鳴った。若さからくるエナジーと、激しく照りつける太陽が2人をじょじょに解放的にした。
「あれぇ、あれなーに」
不意にキム子が前方になにかを見つけて前方の砂浜を指差した。
「えっ、なになに」
「ほら、あそこに浮いているビンみたいなもの」
それは、円筒形の口がすぼまったウイスキーのビンだった。あまり見慣れない名柄だ。口にはコルクが詰ってる。ビンのなかは黒くて何も見えなかった。
キム子は、ちょっと知ったかぶりをしていった。
「これって手紙が入っているんだよ。遠くの島の人が、海流を調べるために浮かべてるんだよ」
「ふーん」
ユウコは、そんなことも知らなかった。
「あけよあけよ」
ユウコが、はしゃいでビンを振った。すると「ポンっ」と音がしてコルクが飛んだ。
「びよよよよーん、ムンクっ」
なんとビンの口から、ムンクの叫びをしている男の顔が現れた。いったい、どういう構造かはまったく不明だが、とにかくビンから顔だけが生えている。
「あっ、あなたはキグーレさん」
ムンク顔が疲れて標準に戻った状態を見てみれば、なんと近所に住む怪人キグーレさんだ。怪人キグーレさんは八百屋との兼業で、マスクを取り忘れて店に出ていたため、町中に正体がばれてしまったという人気者だ。
「でも、この人本当にキグーレさんかしら」
「やっまあそのぉ」
「訳もなくとりつくろうとするところ、キグーレさんに間違いないわ」
キム子が指摘した。
「いやっ、そんなことは」
とりあえず、しらをきる根が怪人のキグーレだ。
「どうしようこれ」
「どうしようもないんじゃない。捨てちゃお」
2人はキグーレのビンを海に浮かべ、おごそかにお別れをすると、キグーレの頭を掴んでいた指を放した。
「こぽぽぽぽぽぽぽ」
ビンは、キグーレの頭の重みで逆さまにひっくりかえって、海上にはビンのしりだけ見えている。
「ぱぺっ ぽぱぴぴぱ ぽぷぱぴぺぴぽーぷぱぽぴ」
翻訳(あれっ おかしいな こんなにせいじょうなのに)
キグーレは、しばらく海中であくまでも自己の正当化を謀ろうと何やら喋っていたが、やがてアワも浮んでこなくなった。そして、ビンはそのままどんどん沖へと流されていってしまった。
「へんなの」
「へんだったね」
「ふふっ」
「えへへへっ」
「あはあはははははっはは」
2人は腹を抱えて大笑いした。青春は今始まったばかりだ。
第5話 完